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有報の株主総会前開示、全上場企業に要請へ 株主権利強化

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【東京本局 = 東証】加藤勝信金融相は28日に、国内の全上場企業約4000社に対して有価証券報告書(有報)を株主総会開催前に提出・開示するよう正式に要請する。株主が議決権行使前に企業の詳細な経営情報を把握できるようにすることで企業統治改革を促進する狙いがある。金融相名義の文書を同日付で上場企業代表宛てに送付する。

金融庁

有報は金融商品取引法に基づく法定開示書類で、企業の財務状況だけでなく役員報酬や政策保有株式、人的資本などの経営情報が横断して記載される。ただ足元で株主総会前に有報を開示する企業はわずか1.5%にとどまり、総会当日の開示が45%、総会から3日後までの開示が9割以上を占める。株主が包括的な情報を総会前に手に入れにくくなっている。

日本企業の情報開示は量的には充実している。経済産業省の調査によると、日本の上場企業の開示資料の総ページ数は1社あたり平均398ページで、米国や英国に比べ2〜4割多い。有報だけでなく、決算短信、招集通知、コーポレートガバナンス報告書など複数の書類が必要とされ、近年はESG関連の開示項目も増加傾向にある。

こうした「開示大国」の実態にもかかわらず、投資家の満足度は低い。経産省の調査では、日本企業の統合報告書に対する投資家の満足度(3点満点)は1.38と、調査対象10カ国の平均(1.82)を大きく下回っているのが現状だ。役員報酬の算定根拠や事業リスク、企業業績への分析が不十分との指摘が多く、情報の量は多くても質が伴っていないという矛盾が浮き彫りになっている。

企業側は情報開示の負担増大に悲鳴を上げている。経理担当者の残業時間が、決算短信や招集通知、有報など、作成作業が集中する4〜6月に月150時間に達する企業もある。資料作成者は「7月になるまで普通の生活は送れない」と打ち明ける。

日本は法律や規則ごとに複数の開示資類を別々に作成する必要があり、重複しているものも多い。有報は金融庁が所管する金融商品取引法、事業報告書は法務省が所管する会社法、決算短信は証券取引所のルールというように縦割り構造となっており、売上高や純利益など同じ情報を何度も異なる書類に記載しなければならない非効率さがある。

金融庁はこうした課題も踏まえ、株主総会前の開示要請に併せて、26年3月期(来期)以降の株主総会開催時期を1〜3カ月程度後ろにずらすよう企業に推奨する方針だ。企業の過度な負担を和らげ、「決算期末から3ヶ月以内」と定める有報の作成に余裕を持たせたい考えだ。

ただ「株取締役の選任など経営に関わる重要な判断が遅れる可能性がある」と懸念の声も上がる。6月に集中している株主総会を分散させるメリットはあるものの、基準日の変更には定款変更が必要なケースもあり、企業にとって簡単な対応ではない。「株主総会の時期を後ろ倒しにするだけでなく、欧州のように年次報告書という一つの書類で複数の法令に対応できる仕組みに変えていくことが本質的な解決につながる」との見方が多い。

こうした課題に対し独自の取り組みで解決を図る企業もある。カゴメは12年から有報を株主総会前に開示している。同社は開示予定日から逆算して作業スケジュールを組み直し、監査法人との連携を強化することで早期の有報作成を実現した。

今回の要請で企業の開示慣行をどこまで変えるかは不透明だ。海外投資家が求める国際的水準まで質を高めるには、開示制度自体の抜本的な見直しが不可欠になる。

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