日経、8年ぶり購読者数プラス 紙媒体解約一巡、5大紙初の快挙
【東京本局 = 社会】日本経済新聞(東京・千代田)は16日、2024年末時点の購読者数を発表した。総契約数は約236万人と、上半期に達成した購読者数の昨年末比プラスを通年で維持した。2016年以来8年ぶりの快挙で、購読者数が激減し近年業績不振に苦しむ新聞業界で「敵なし」の様相がより一層濃くなる。紙媒体の解約が一巡する一方、法人向けの営業が奏功し、電子版の契約数は足元で弾んでいる。専門紙も電子版に移行し、デジタルシフトを一気に進める。
電子版の購読者数は12月頭に初めて100万人を超え、年末時点で102万人だった。23年12月の89.7万人から14%伸ばした。キャンペーンの実施やテレビ・電車内広告、法人向けの営業が効いた。NISAの開始で国民の投資意識が向上したことも後押しした。ただ半年前からは年換算で10%増と、下半期はペースがやや失速している。関連媒体を含む電子版総契約者数は23年12月の100万人から12月1日時点で117万人と2割増えた。
電子版が着実に契約者数を拡大する一方、紙媒体の解約は足元で下げ止まりの気配を見せる。かつて購読の中核を担った壮年層のオンライン移行は一巡した一方、新聞を日常的に読む高齢者を中心とした層の厚みが増している。「漫然と購読していた」層の離脱が収束したことで、紙媒体の急激な減少にはひとまず歯止めがかかった。
一方で電子版の購読者層は40代・50代が多い。紙媒体から移行する際、数ある電子版媒体から「意識して」日経電子版を選んだ層が一定数いる。ロイター・ジャーナリズム研究所(イギリス・オックスフォード)が2024年に実施した主要メディアの信頼度は、日経が新聞社で最も高かった。新聞社トップは7年連続。長年培ってきたブランド力がここに来て有効に働き、サラリーマンや経営者の取り込みに成功している。
電子版はここ1年、法人契約の開拓に注力した。23年末時点の1万7000社から8割増やし、3万社を超えた。毎日新聞の800社の約40倍だ。テレビやネット、電車内でも広告を積極的に打ち出したほか、2ヶ月無料キャンペーンも好評だった。個人と比べて安定的かつ大口の契約を結べる法人向けを広く展開し裾野を広げる。
国内新聞社で日経の一人勝ちは鮮明になっている。電子版の契約者数は非英語メディアで世界1位の座を確立した。傘下の英Financial Timesと合わせた契約者数は、ニューヨーク・タイムズとWSJに次ぐ世界3位と圧倒的だ。日経単独でも世界5位に食い込む。国内では朝日新聞がデジタル版の充実を進めるが、エンジニアの質や企画で日経に劣る面は多く、差は開く一方だ。
日経のエンジニアは他社に比べ活躍の幅が広い。開発者ブログや、エンジニア専用の求人ページ、インターンまで用意している。サイトの仕組みや開発に使用したツールも一般に公開している。デジタル技術の利用も積極的だ。原発の排水や羽田事故を視覚的に解説したビジュアルデータの記事は、10月に秋田で開かれた日本新聞協会賞に選ばれた。最近では、希望者向けに生成AIの検索機能を展開した。読者が質問すると、日経電子版の記事をもとに回答してくれる。
専門紙をはじめ、紙へのこだわりも捨てている。2024年春には日経産業新聞を事実上廃刊とし、本紙電子版のリニューアルでコンテンツを補った。今年春には個人向けの専門金融紙「日経ヴェリタス」を事実上廃刊とし、デジタル版に完全移行する。採算が合わず、原材料費が高騰する紙媒体を廃止することで利益率を改善する。
NISA需要の取り込みにも成功した。2024年1月、新しい少額投資非課税制度(新NISA)が始まった。日経電子版は3月、NISAを見据えてマーケットページをアップデートした。PC版では表示領域を増やして記事を見やすくした。スマホ版では簡単にマーケット情報にアクセスできるように導線を改善した。全体的なUIも改良し、ユーザ体験の向上に努めた。
電子版で複数プラン用意しない方針が光った。日経電子版の購読プランは4277円の一つしかなく、毎日の1070円や朝日の1980円(スタンダード)と比べると高い。ただ、プランを小分けしない代わりにコンテンツ量は競合の比にならないのが特長だ。日経会社情報もその一つ。
日経会社情報は、東洋経済の会社四季報に対抗して始まった金融系雑誌。季刊雑誌は四季報の牙城を崩せず2017年に撤退するが、デジタル版に移行し電子版ユーザー向けの付帯サービスに生まれ変わった。
四季報オンラインを毎月1100円を払わなくとも、4000円払えば、日経の高品質な記事、株価推移や会社の概要、財務分析、市場予想に至るまで幅広い情報がついてくる。「経済といえば日経」というイメージも加わって、電子版を選んだ投資初心者層が多そうだ。
日経が次目指すのは、紙媒体の発行部数を電子版が安定的に上回るようになることだ。日経の発行部数は12月時点で134万部。前年比5%減った。360iResearchによると、世界の電子版市場は2030年まで年平均6.1%成長する。過去のデータも踏まえて当サイトが公開されたデータから保守的に算出すると、来年には電子版の関連サービスを合わせた総契約数が紙の発行部数を上回り、26年には本紙電子版単体で超えそうだ。