Arm、Qualcommのライセンス剥奪へ 今月末発表の新型スマホチップ採用の技術めぐり
【米国本局=シリコンバレー・東京本局=テクノロジー】ソフトバンクG(0.5%)傘下の英半導体設計大手Armは23日、米Qualcommに対し半導体設計のライセンス契約を解消する方針を通知した。60日の猶予期間を設け、その間に和解案の提示がなければライセンスを剥奪する。
両社は2022年からArmの知的財産を巡って法廷闘争を続けていて、関係が一段と悪化している。Qualcommがライセンスを剥奪されれば、ハイエンド向けで大半のシェアを占める同社のSoCブランド「Snapdragon」を採用するスマホ大手や、今年新型を発売したMicrosoftのSurfaceなど広く影響が及ぶと見られ、混乱は市場全体に波及する可能性がある。
Qualcommが今月末に発表を予定している新型のSoC「Snapdragon 8 Elite」の発表を直前に控えたタイミングで通告に踏み切る。同チップはAnTuTuベンチマークで302万点を記録するなど、ライバルとなるApple A18チップの165万点を大きく上回る性能を実現する見込みだった。
Arm側がこの時期に通達した背景にあると見られるのが、SD 8 Eliteが導入した「Oryonアーキテクチャ」だ。Orygenは、Qualcommが21年に買収した半導体設計会社のNuviaの技術をベースにしている。
Armは、Nuviaが持つArmライセンスをめぐって、買収時に通達がなかったことから、Qualcommが知的財産を侵害していると主張。Qualcomm側も譲らず議論は平行線を辿り、22年にはArm側がライセンス違反と知的財産の侵害で提訴。法廷闘争にもつれ込んだ。
ところが、裁判が続く中でもQualcommはWindows向けのArmチップなど新製品にNuvia製の技術を輸入。Arm側は強く反発していた。
Arm(6.7%)は23日のNASDAQ市場で急落した。収入の柱だったQualcommとの取引終了が業績悪化につながるとの見方が売りを誘った。Qualcomm(3.8%)は反落した。
Qualcommがライセンスが剥奪されれば、同社の売上高390億ドル(約5兆9000億円)の大半を占めるチップ事業が大きな打撃を受ける。さらに、今年発売されたMicrosoftのSnapdragon搭載のSurface、HPのAI PCなど、Armアーキテクチャを採用した次世代パソコンの開発にも支障をきたす恐れがある。Microsoftの圧力を受けてArm向けのソフトウェアの開発を進めるAdobeのロードマップにも影響が及ぶ可能性がある。
Armの回路設計図はx86と並んで半導体業界の要となっており、Apple、MediaTek、NVIDIA、Intelなど主要半導体メーカーが同社のライセンスを使用している。近年の生成AIブームで、Armの第1四半期(24年4-6月期)純利益は前年同期比2.1倍の2億2300万ドル(約340億円)だった。Qualcomm側が具体的な和解案を示さなければ、12月16日にデラウェア州地裁で審理が始まる予定だ。