「TikTok禁止法案」、米議会下院で可決 来週中にも上院通過
namiten.jp〈日曜特報〉
【米国総局 = ニューヨーク・東京総合 = テクノロジー】
米国下院は20日、中国企業ByteDance(バイダンス)が所有する人気ショート動画アプリTikTokの使用を禁止する法案を可決した。同法案は、ByteDanceに対し、約1年以内にTikTokの米国事業を米国企業に売却するよう求めており、売却が実現しない場合、TikTokは米国内でのサービス提供を禁じられることになる。草案では売却期限が6ヶ月とされていたが、昨今の情勢を踏まえて最終的に9ヶ月、大統領の承認で最大1年程度と表現を弱めた。
法律が施行されれば、バイダンスは事業分離か米国撤退のどちらかを迫られることになる。なお、設定された期限である9ヶ月以内(大統領の承認で1年に延長)に動きが見られなければ、米当局は1ユーザーあたり5000ドルの巨大制裁金を課せるようになる。TikTokの米国内アクティブユーザーは約1億7000万人で、制裁金は単純計算すれば8500億ドル、日本円にして約130兆円に上る。事業分離が期限内に行えなかった場合は、1ユーザーあたり500ドル(約850億ドル、13兆円)の制裁金を課す。
中国との競争が激化する中、若者や企業・音楽レーベルが広告塔として中国製アプリを使っていることに対して米議会には危機感がある。政府・民主党内にはこの法案を迅速に成立させたい思惑があった。
下院議長のマイク・ジョンソン氏は、ロシア資産の没収を可能にする法案や、さらに数ヶ月間議会内の対立で停滞していた台湾、イスラエル、ウクライナへの援助法案などと組み合わせる「パッケージ」手法を利用して、若者などから批判を浴びるTikTok禁止法案を通過させた。
このパッケージ法案は数日以内に上院に送られ、可決される見通しだ。上院は2月、TikTok禁止法案を含まない953億ドル規模の同様のパッケージ法案を既に承認している。
米国の政治家らは長年、ByteDanceが中国政府とデータを共有する義務を負っていることから、TikTokについて安全保障上の懸念を表明してきた。TikTokは米国内だけで推定1億7000万人のユーザーを抱えている。
トランプ前大統領でも政権末期、TikTokの使用禁止を試みたが、「TikTokの消滅はFacebookの親会社であるMetaを利するだけだ」とトランプ氏が主張を変えたため頓挫していた。なお、トランプ氏はMetaを「国民の敵」と見做している。
バイデン大統領は、来週にも上院を通過すれば同法案に署名する意向を示した。同法案は完全な禁止ではなく売却を迫るものだが、ByteDanceの経営陣は最悪の事態を恐れており、法廷闘争に打って出る構えだ。TikTokのユーザーやクリエイターからも法的異議が唱えられる可能性がある。
TikTok側はこの法案に強く反発している。米ウォール・ストリート・ジャーナルによると、ByteDanceの広報担当者は先月、「この法案には予め決まった結果がある。米国におけるTikTokの全面禁止だ」と述べ、法案の不当性を訴えている。今後、TikTokは法的措置を検討し、この法案が憲法で保障された表現の自由や正当な法的手続きを侵害していると主張して法廷闘争に打って出る可能性がある。また、ユーザーやクリエイターからも、表現の自由を制限するとして法的異議が唱えられるかもしれないとBusiness Insiderは報じた。
議会に対してロビー活動を強化し、法案の修正や廃案を求める可能性がある。また、売却期限の延長や、売却先の条件緩和などを求めるロビー活動も予想される。
最悪の事態に備え、TikTokは米国企業への売却を検討する可能性もある。ただ、ByteDanceにとって満足のいく条件で買い手が見つかるかは不透明だ。いずれにせよ、TikTokは法案に真っ向から反発し、あらゆる手段を講じて禁止を阻止すると見られる。米中冷戦は、民間企業も巻き込んで、激しさを増している。