【Apple反トラスト訴訟(2)】司法省、iMessage「緑の吹き出し」やAPI制限を問題視
米司法省は現地時間21日、Appleを独占禁止法の疑いで提訴しました。同省は合計で5つのトピックについてApple側を非難しています。この記事ではトピック3「iMessage」とトピック4「Apple Watch」について触れていきます。
【東京総合 = テクノロジー】米司法省は現地時間21日、Appleを反トラスト法違反で提訴した。訴状の中で、同社が他社製のSMSサービスとスマートウォッチの機能を意図的に縛り、iPhoneユーザーを同社製品で必要以上に囲い込んでいると指摘している。
トピック3:iMessage「緑の吹き出し」
1.SMSを自社製アプリのみに制限
訴状によると、司法省はAppleは自社のメッセージングアプリ「Apple Messages(日本:メッセージアプリ)」の機能を向上させる一方で、WhatsAppやFacebook Messengerなどの他社製アプリの機能を制限していることを問題視している。他社製アプリはSMS(ショートメッセージサービス)を利用できない。
つまりAppleは、電話番号を入力すれば手軽に会話をスタートできるSMSを自社サービスのみで利用することで、より高度な機能を提供する他社製アプリ(LINEやWhatsApp、Facebook Messengerなど)との間で適切な競争が行われておらず、反トラスト法(独禁法)に違反すると指摘した。
機能 | メッセージ | 他社製 |
SMS | ||
暗号化 | ||
RCS | ▲ |
例えばLINEを使う場合、まず相手がLINEをスマホにインストールしているかどうかが前提になる。相手がインストールしていなければ利用できない。対照的に、iPhoneのメッセージアプリを使う場合、単に相手の電話番号を「To:」に入力し、メッセージを送信するだけだ。それだけでLINEと同じように動画や画像、カスタム絵文字などの高度な機能を利用できる。
2.他社製端末とのメッセージで自由度を低下
さらに司法省は、iMessageの提供端末をApple製に限定することの問題点も指摘した。対Androidとの間でメッセージをやりとりをする際に暗号化が十分にではないほか、写真や動画の品質も著しく低下することも指摘した。iPhoneからAndroidへの乗り換えを妨害し、囲い込みを狙っていると主張している。
実際、Apple幹部は社内メールの中で、「iMessageをAndroidに対応させることは、iPhoneユーザーがAndroidに乗り換える障壁を取り除くことになる」と懸念を示していた。つまり、Appleは自社のメッセージングアプリの優位性を維持するために、意図的にユーザー体験を犠牲にしているというわけだ。
iPhoneを使って友人や家族とメッセージのやり取りを行うとき、ユーザーにはiMessageとSMSの2つが用意されている。
相手がApple端末の場合
iMessageはAppleデバイス間でのみ機能することが特徴だ。iMessageは、SMSを使わずモバイルインターネットを利用してメッセージや、画像、動画を送信する。既読機能もついていて、相手がメッセージを開封しているかどうかも確認できるようになっている。インターネットを介して送信するため、SMS通信料が加算されないのも大きなメリットだ。
相手がAndroidなど他社製端末の場合
一方、SMS(Short Message Service)は、Androidを含めて多くのOSで機能する標準規格だ。簡単なメッセージのやり取りは行えるが動画や画像の送信には対応していない。一回あたりの送信手数料は約3.3円。文字数が多ければ、累進的に手数料は増える。無料でメッセージを送れるLINEなどが台頭した原因はこの手数料だ。
また司法省はこの問題と関連して、iMessageとSMSシステムを視覚的に区別していることも問題だとした。機能を他社製iMessageは青い吹き出しで表示され、SMSは緑色の吹き出しで表示されるため、簡単に区別できてしまう。
Appleはこれを「セキュリティ上の懸念を区別するため」と説明しているが、米国ではこの仕様が原因でAndroidを使っている子供がいじめを受ける事例もあるほどに差別を生んでいる。
3.業界標準の「RCS」の導入でもなお不透明
他方、Androidは「RCS」という規格を推し進めている。iMessageと同じようなシステムで、インターネットを介してやり取りを行えるため手数料は取られない。Apple製を除くほとんどの端末で対応していて、Androidや開発元のGoogle側としては残るAppleに導入を促したい考えが強かった。Googleは自社の開発者会議で、Appleを名指しこそしないものの「ありとあらゆるモバイルOSがRCSに切り替えてくれたら、それほど嬉しいことはありません」と笑いを誘った。
この思いが届いたのか定かではないが、Appleは2024年からRCSに対応することを表明している。しかし、司法省はここでもApple側を非難している。AppleがRCSも他社製アプリで仕様できないよう規制する方針だというのだ。つまり、RCSへの対応を表明したものの、結局は自社のメッセージアプリの優位性を維持するために、他社製アプリの機能を意図的に制限し続ける。
加えて、RCS規格自体が急速に進化していることから、AppleがiMessageのアップデートを優先してRCSへの対応を怠れば、かえってiPhoneユーザーの利便性が損なわれる可能性もあることに懸念を示した。司法省は「RCSへの対応を口実に、サードパーティ製アプリの排除を正当化するのは本末転倒だ」と批判している。緑色の吹き出しも継続されれば、それこそ意味がない。
トピック4:他社製スマートウォッチ
米司法省はAppleを反トラスト法違反で提訴した訴状で、同社が競合他社製スマートウォッチの機能を意図的に制限し、iPhoneユーザーにApple Watchを購入するよう誘導していると指摘している。
訴状によると、Appleは他社製スマートウォッチとiPhoneの連携を阻害することで、ユーザーがiPhoneからAndroidスマートフォンに乗り換える際のハードルを高くしているという。
スマートウォッチ市場を巡っては、他社の参入が相次いでいる。Googleは、フィットネス端末大手のFitbitを買収し、独自のスマートウォッチを投入。SONYやガーミン、Fossilなども独自製品を展開するなど、競争が激化している。
Apple幹部の社内メールでは「Apple Watchは、iPhoneユーザーの乗り換えを防ぐ役割を果たしている」と記されていたという。つまり、Appleは意図的に他社製ウォッチの魅力を削ぐことで、自社製品への「囲い込み」を恣意的に行なっているのだ。
1.通知への応答機能の制限
iPhoneの通知に対して、他社製スマートウォッチから直接返信することができない。一方でApple Watchでは可能であり、これが消費者がApple Watchを選ぶ大きな理由になっていると指摘。Appleは、他社製スマートウォッチ向けのAPIを意図的に制限することで、この機能を阻害しているとのことだ。
Apple Watchでは、あらかじめ用意された定型文を選択したり、音声入力で返信したり、絵文字を送ったりといった操作ができる。
こうした便利な機能を実現しているのが、通知機能に関するAPIだ。AppleはApple Watch向けに、通知の受信と応答に必要なAPIを活用して、連携を実現している。
しかし、Appleは他社製のスマートウォッチに対して、こうしたAPIにアクセスできないよう、制限を設けている。他社製スマートウォッチで、iPhoneからの通知を受信することはできるものの、そこから直接返信することができないのはこれが原因だ。
例えば、iPhoneで「今日遊べますか?」というメッセージを受け取ったとしよう。Apple Watchと他社製のスマートウォッチどちらでも内容を確認することができる。ただ、「遊べるよ!」と返信したくても、他社製のウォッチ単体ではその動作を完結できない。iPhoneを取り出して返信する必要がある。
これが、スマートウォッチの利便性が大きく損なわれると司法省は指摘する。スマートウォッチの購入を検討するユーザーにとって、ここまで大きな機能差があるとなれば、多くのユーザーはApple Watchを選ぶことになる。
そもそも、Apple Watchが登場する前までは他社製に対して通知のAPIは提供されていた。Apple側は「技術的な制約」を理由に挙げるも、司法省はこれを「囲い込みの口実に過ぎない」と一蹴。自社製品登場後に、他社製スマートウォッチの機能を意図的に制限し、有利に扱うことは、反トラスト法に違反すると主張している。
機能 | Apple | 他社製 |
通知の確認 | ||
ウォッチから返信 | ||
Bluetoothオフ時の通信 | ▲ |
2.iPhoneとの接続安定性の問題
他社製スマートウォッチは、iPhoneとのBluetooth接続が不安定になりやすい。ユーザーが誤ってiPhoneのBluetooth機能をオフにしてしまった場合、Apple Watchでは自動的に再接続されるが、他社製では再接続されない。Appleは、この問題を解決するためのAPIへのアクセスを開発者に与えていないという。
BluetoothはiPhoneとウォッチを繋ぐ生命線だ。この生命線が途切れることはすなわち、ほとんどの連携ができないことを意味する。ユーザーがコントロールセンターから謝ってBluetoothをオフにした時、他社製では通知の確認すらできなくなる。
しかし、Apple Watchでは確認できる。これは、Bluetoothがオフにされていても、バックグラウンドでApple WatchのみBluetooth接続が維持されているからだ。これを実現しているAPIも通知と同様、他社製には提供されていない。これを司法省は「ユーザーがBluetoothを謝ってオフにすることをAppleは理解しているからこそ、この技術を他社に譲らない」と指摘したのだ。
3:セルラー通信機能の制限
セルラー通信機能を搭載した他社製スマートウォッチでは、iPhoneと同じ電話番号を使用できない。スマートウォッチで通話やメッセージの送受信を行う際、iPhoneとは別の電話番号を使わざるを得ず、利便性が大きく損なわれる。Apple Watchではこの機能が実装されており、司法省はAppleが意図的に他社製品を差別していると指摘している。
セルラーモデルとは、ウォッチ単体でモバイルネットワークに対応できるようにしたモデルだ。携帯会社のSIMやeSIMを挿し込むことで、スマホが近くになくても、インターネットに接続できたり、電話の発着信が可能になる。
Apple Watchの場合、セルラーモデルはiPhoneと同じ電話番号を使用できる。つまり、iPhoneの電話番号を共有し、ウォッチで通話やSMSの送受信が行えるようになる。iPhoneを持ち歩かなくても、iPhoneと同じ電話番号でApple Watchだけで連絡を取ることができる。
反面、サードパーティ製のセルラー対応スマートウォッチでは、iPhoneとは別の電話番号を使用しなければならない。ウォッチ単体で通話やメッセージのやり取りをすることは可能だが、iPhoneとは異なる番号を相手に伝える動作が生まれる。
司法省は、スマートウォッチの利便性が大きく損なわれるこの制約を緩和し、iPhoneの番号を共有できるよう訴えているのだ。
加えて、iPhoneとは別の回線契約が必要になるため、通信料もかさむ。
米司法省は
これらの制約によって、多くの企業が公平な競争の土台にすら立てず、ユーザーにApple製以外の選択肢が生まれないことから反トラスト法(独占禁止法)に違反しているというのが司法省の主張だ。
これに対し、Appleは「ユーザー体験の向上と、プライバシー保護のための措置」と反論した。しかし司法省は、Appleの主張は「独占維持のための口実に過ぎない」と痛烈に批判。「Appleは、自社の利益になる場合にのみプライバシーを重視し、独占の維持に必要な場合は、ユーザー体験を犠牲にしている」と指摘した。「イノベーションを阻害し、ユーザーの選択肢を狭めるものだ」と声明を発表している。
自社製品を優遇するーーそれは営利企業にとって当然のことなのかもしれない。しかし、全世界で数十億人が利用し、住所から血液型、クレカ・銀行情報までを利用者は明け渡している。アメリカや中国を超える人口をもってると言ってもいい。こうした状況下で、AppleがiPhoneとの連携で他社製品を不当に扱うことは、競争阻害につながりかねない。司法省をはじめ、各国の規制当局は「公正な競争環境の確保が急務」との立場を取っており、Appleに対する反トラスト法違反の追及は避けられない情勢だ。
メッセージングアプリとスマートウォッチは、現代人の生活に欠かせないツールだ。米司法省の訴訟をきっかけに、GAFAMの「反競争的行為」に待ったをかける動きが一層活発化する可能性がある。