マスク買収1年 ー X、自壊の兆し 振り返りフォーマット
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マスク買収1年 ー X、自壊の兆し

namiten

【東京総合・シリコンバレー = namiten.jp】マスク氏のTwitter買収から27日で1年が経つ。買収前はマスク氏への期待が色濃かったTwitterも、今は反マスク運動で見る影もない。この1年間で数え切れないほどの変更を加えてもなお、マスクが目指す「スーパーアプリ化」の全貌は霞んでいる。

撤去された旧Twitterの看板

ブランド名を変えても、アクティブユーザー数が大きく減少することなく1年を迎えることができたX。しかし、社内ではリンダCEOとマスク氏との間で目指す方向性が食い違うなど、社内では分断の兆しが見え始めている。マスク氏に買収費用を融資した銀行団にも後悔が滲んでいる。

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Twitter買収前〜買収完了

まず、買収完了前の一連の騒動について振り返る。買収前から日本を含めTwitter上で話題になっていたが、詳しく書き出すと買収前で、こんなにも長くなるのかと驚いてしまう。

Q
タップで展開
-2022/4
買収報道

マスク氏は、2010年からTwitterを使っている「ツイ廃」。フォロワー数は1.6億人で世界一。加えて世界長者番付で1位を獲得したこともある総資産36兆円超の大金持ち。

2022年1月から前兆もなくTwitterの株式を凄まじい勢いで買い始める。同年4月にはマスク氏の所有する株式がTwitter社全体の9%に上り、同社の筆頭株主に躍り出た。この報道が米メディアによって伝えられると、業績改善への期待などからTwitterの株価は27%超急騰した。
マスク氏はTwitter株式の購入開始前後から、Twitter上で「ツイートの編集ボタンが欲しいか?」というアンケートを呟くなど、Twitterの技術的な面での話題に触れ始めていた。

-2022/5
第一次Twitter買収騒動

2022年4月、筆頭株主となったマスク氏に対しTwitter社の取締役会への招いた。同氏はこれを受け入れたが、3日後には一転、Twitterのスパム対策が不十分などと主張し、取締役会への参加を取り消した。これまでの一連の騒動をTwitterの株主らは強く批判し、ニューヨーク南部連邦地裁に提訴する方針を示した。

2022年4月14日、マスク氏はTwitter社に対し、約430億ドル(6兆4300億円)で買収提案したとTwitterで呟いた。同社はこれを「保留」としたものの、WSJやBusiness Insiderを始め多くの米経済メディアは「Twitter社は、買収提案を拒否すると発行済み株式を全て買い取られ、どのみちマスク氏に乗っ取られるという板挟み状態に陥っている。」と解説した。

2022年4月、買収提案後に行われた米メディアのインタビューで「Twitterを自由な言論空間にすることを目指している。決して自分の懐を潤すことが目的ではない。表現の自由は民主主義の必須条件だ」と持論を展開した。

2022年4月、Twitter社は、先述した発行済み株式を全て買い取られた場合に備え、株式を追加発行(追加購入)できる施策を打ち出した。

2022年4月20日、マスク氏がみずほ銀行を含む銀行グループから買収に向けた資金(融資)を獲得できたと報じられた。

2022年4月23日、マスク氏はTwitter社取締役のテイラー氏に対し買収提案が「最善かつ最終的なものだ」と書簡を送ったとして、同社の買収は「最終段階にある」と複数の米メディアが伝えた。その後株価は5%超上昇した。

2022年4月25日、マスク氏とTwitter社間で10/24に買収を完了する計画の最終合意が行われた。

-2022/8
契約の「保留」と訴訟

2022年5月13日、マスク氏はTwitterのアクティブユーザー数のうち5%程度がスパムアカウントかボットであるとの調査を受けて、具体的な対策が出るまで買収契約を「保留」にすると一方的な通告を行なった。これを受け、同社の株価は10%超下落する。また同時にマスク氏が求めた、正確なユーザー数把握のための第三者機関の設置にTwitter社は「非現実的だ」として応じない姿勢を示すと、同氏はTwitter上でウンチの絵文字をツイートするなど対立が深まった。買収計画は空中分解寸前の状態に陥った。

2022年5月、マスク氏との間で交わされた買収契約で「保留」は禁止されているとして、Twitterの株主らがカリフォルニアの裁判所に集団提訴したと発表した。

2022年7月、一連の訴訟に関連して、内部告発者支援団体は、Twitterの取締役はマスク氏に対し虚偽の説明を行ったとして同社幹部を強く非難する文書を公開した。これを受けて行われた同月7日の電話会議でTwitter側は「ユーザーのプライバシーに大きな影響を与えるため、ひとつひとつのアカウントを調査するのは不可能だ」と、正確なスパムアカウント数の把握について従来の主張を繰り返した。
また同日(7日)、米大手経済メディアのWSJは、訴訟や資金調達の面で買収計画が中々進んでいないことについて、「契約が危機に瀕している。」と評価した。

2022年7月8日、マスク氏はTwitter社の「虚偽の報告や重大な契約違反により買収は困難を極める」として買収契約の破棄を規制当局に通告した。

2022年7月、Twitter社側は買収契約の破棄は「違法」だとして裁判所に提訴し、当初の買収完了予定の10/24に間に合うよう、9/19-9/24までの裁判開催を要求した。

2022年8月、マスク氏は敗訴の可能性を考慮し、自身の保有するテスラ株(米EV大手)を売却したと発表した。事前に売却の可能性を否定していたこともあり、テスラ株主から批判が集中した。

2022年8月、Twitter社はマスク氏との対立を和らげるため、マスク氏の求める「スパムアカウントの対策」を行うため、性的搾取などの監視を行う部門とスパム対策部門の合併を行い、スパム対策を強化すると発表した。

2022年9月、マスク氏は資金調達が困難であることやTwitter社側の対応に不満があるとして、以前の430億ドルから値下げした310億ドル程度での買収提案を行った。これをTwitter側は拒否した。

-2022/10
波乱の終わり

2023年10月3日、マスク氏は「考えを変えた」として、Twitter社の訴訟取り下げを条件に、当初の430億ドルでの買収提案を行うとTwitter側に通告した。一転した対応について米メディアは、マスク氏側の弁護チームが「勝訴の道筋が見えない」と同氏に伝えたからだと伝えている。この発表でTwitter株は一時23%超急騰した。

2023年10月、WaPoは、マスク氏がCEOに就任した場合、75%の従業員を解雇する意向だと報じた上で、経営陣側はマスク氏への売却を熱望していると伝えた。従業員側は激しく反発した。

マスク氏による各方面への説明

2023年10月某日、マスク氏は、買収資金調達を支援した銀行とのビデオ通話で、今月末を期限として買収を完了させると確約した。

2023年10月26日、マスク氏はTwitter本社を訪れ、同社の従業員らと対談した。その中で同氏は前述のWaPoの報道のとおり、レイオフを行う方針であることを認めたものの、75%にも及ぶ大規模なものは想定していないと述べた。

2023年10月27日、マスク氏は買収後を想定し、広告主に向け公開書簡を送付した。マスク氏の「Twitterを自由な言論空間にする」方針に懸念を示していた広告主に対し、ツイッターは「自由奔放な地獄絵図」にはならないとした。買収の動機である「世界共通のデジタルタウン広場」を作りたいという思いは変わっていないとも記した。

2022.10.27
買収の完了

2023年10月27日、マスク氏はTwitter上に「鳥()は自由になった」と呟き、買収が完了したと発表した。買収を受けTwitter社の取締役会は解散し、CFOや顧問弁護士らを即時解雇とした。その後Twitter inc.はマスク氏の運営するX Holdings Corp.に吸収合併された。

銀行団に滲む後悔の色

Twitterを440億ドル(約6兆6000億円)で買収した際に資金提供した三菱UFJを含む複数の銀行団だ。2022年10月27日の買収完了から1年を迎えてもなお、債権がマイナスにならないよう調整するのに必死だという。

©︎WSJ

マスク氏の買収から一年を前に、WSJがスクープとして大々的に報じた。

銀行団側はツイッターの買収資金として130億ドルをマスク氏に融資を確約していた。銀行団側には、買収に沸く投資家らに債権を売却する思惑があった。

しかし、マスク氏は買収後、社名を「X(エックス)」に変更。「Twitter」というブランド名を捨てた同社の市場評価は暴落した。

それだけではとどまらない。マスク氏の気まぐれな経営と広告事業の低迷を背景に、格付け会社はデフォルトのリスクを懸念し、ジャンク級へと格下げする可能性すらあるのだ。このような懸念材料から、マスク氏に期待していた投資家の心は冷め切った。

WSJによれば、銀行は債権を割引価格でバランスシート上に抱え込むことを余儀なくされ、最終的には総額20億ドルの損害を被ることになるという。

一方で、昨年の買収直後に「倒産の危機にある」と言われていたTwitterは、2024年以内に黒字化する見込みだという。

背景には広告依存からの若干の脱却に加え、コカ・コーラなどの太客が帰ってきたことにある。

仮に黒字化すれば、2012年から現在まで、通年でわずか2回しか黒字化を達成していないXの価値は急騰する可能性は捨てきれない。

一方で、買収から黒字化までの期間をマスク氏は「黒字化するためのクッション」としか考えていないことにも注意が必要だ。もしこの先、黒字化を達成すれば、マスク氏による改革や変更のスピードがアップすれば、むしろ市場価値が落ちる考えられる。「X」という企業は未来を全く見通せずにいる。

敵対勢力の自滅

マスク氏の買収後、批判が集まったTwitterの「乗り換え先」が話題になったことが何度かあった。それらは「分散型SNS」と呼ばれる仕組みを採用したもので、以前からTwitterのような監視社会が嫌いなユーザーから根強い人気を誇っていた。
ユーザーがサーバーを作り、その小さなコミュニティの中で活動する。サーバー間で連携することもでき、Twitterと違って厳しい規制もない。

しかし、これらのSNSは何度も浮かび上がっては沈んでいった。理由は至って簡単で、Twitterではなかったからだ。Twitterの一時的な代替手段でしかなく、それ以上の役割を持っていない。Twitterが使えるようになったらみんなTwitterを使ってしまう。彼らからすれば、いきなりユーザーが急増したから慌てて投資をした途端、急速にしぼんでいくという迷惑極まりない出来事になってしまった。

結局、instagramの派生であるThreadsも含めTwitterの不具合騒動に乗っかったSNSたちはユーザー獲得に大きく苦戦している。Threadsは世界最速で登録者1億人に達したが、現在のアクティブユーザー数は月800万人程度で、使用時間はTwitterを大きく下回る。登場からしばらくの間は強気だったMetaのザッカー・バークCEOも、現在は弱々しい態度にひっくり返った。

14年以上続くTwitterを丸ごとお引越しするなど最初から夢の中の話だったのだ。「データ」に踊らされてとりあえずアカウントを作っただけの人が大半であることは明白である。

壊された「文化」

もっとも、今のユーザーが愛しているのは「Twitter」であって「X」ではない。APIの有料化や閲覧制限、リブランドなど、14年にわたって土台を築いていた「根幹」をマスク氏は破壊し続けている。

マスクの功績

マスク氏は買収後、「寄付金」とも揶揄されていたTwitter Blueのサービス拡充を進め、広告ビジネス脱却の柱にすると明かした。当時は全ユーザーの憧れだった「青バッヂ(俗に言う公式マーク)」が付与されるようアップデートしたことは記憶に残っているだろう。その後も特典を追加し続け、現在追加される新機能はX Premium(Twitter Blue)向けのものが大半を占める。

Xは、Premiumに今後、高価格帯と低価格帯の2プランを新設すると明かしている。一つは広告全消しプラン、もう一つは広告は減らず、その他の特典が付いてくるプランだ。思いの外、登録者が増えなかったとされる「Twitter Blue」の選択肢を広げ、収入を増やしたい考えだ。

Twitter Blue

一時は「公式との見分けがつかなくなり困る」などの懸念が上がった青バッヂも、現在は誰もが「ただのマーク」として認識するようになったのを見ると、やはり「馴れ」は重要だと再認識させられる。

実はマスク氏の買収後、Twitterの便利機能は大幅に増えた。誤爆防止ため、ポストボタンを押してからしばらく経ってポストされる機能を始め、長文投稿機能、買収前から予告していた編集機能などがある。「話題の記事」など、フォローしているユーザーの間で話題に上がったニュースをまとめる機能も追加されている。

光と影

光が強いと影も濃くなる。有名な話だ。マスク氏のTwitter Blue強化は、Twitterに分断をもたらした。今までは平等だった「一般ユーザー」に区別をつけたからだ。YouTubeやSpotify、Amazonなどを見ればわかるが、有料ユーザーを優遇するのはネットサービスにおいて別に珍しいことではない。ただし、Twitterはそのような区別がないことが人気な理由の一つだった。だが、API不足を懸念して始まった閲覧制限、広告出稿など、マスク氏が買収してからのTwitterは他のサービスと同じような構造に変わってしまった。Twitterの1年を見返してみると、Twitter Blueユーザーが損害を被ったことはほぼない。

いいねボタンの非表示や実質有料化などの施策も批判を集めた。特に、最近始まった年間1㌦の有料プランは、いいねやリポスト、返信などを行う際に必須となる。見る専以外には税金と捉えられてもおかしくない。

いいねボタンの非表示では、TL上からいいねやリポストを行うボタンを取り除く。マスク氏の買収後に導入された「インプレッション数」のみが表示されるようになる。マスク氏はYouTubeの主な指標である「視聴回数」と同じようなシステムにしたいと考えているのではないか。収益化機能などもインプレッション回数が大きく関わってくる。いいね数が最重要指標と位置付けられる時間は、実はもうそこまで長くないのかもしれない。

目指す「スーパーアプリ𝕏

マスク氏は買収時からTwitterをスーパーアプリにすると繰り返し言っている。Whats Appのような、電話やチャット、支払いまでこなせる「なんでもアプリ」だ。

これからはDMやライブ機能に開発リソースを大きく割くと述べていた通り、マスク氏の買収1日前の26日(米国時間は25日)にはついに通話機能が追加された。DMを繋いでいる同士で通話が可能になる。ライブ機能も組み合わせればYouTubeとLINEを足した、それぞれの上位互換となる可能性を秘めている。

話題になった「完全有料化」も、言ってしまえばスーパーアプリXへの布石にすぎない。電話番号と年齢、クレジットカード番号を獲得することは支払いアプリのもっとも大きな「障壁」と言える。
それをマスク率いるXは「Twitterを使うにはクレカ番号が必要だ」という理由を付けることですんなりゲットできる。あたかも「悪質なスパムボットを潰すため」と正当な理由だとユーザーを錯覚させたのだ。

試験段階ではあるものの、米国版Xでは仕事を探す機能が導入されている。これをBlueユーザー向けの本人確認機能と、マスク氏の立ち上げたxAIを組み合わせれば信頼性の高い求人アプリにまで化けることができる。

xAIのロゴ

TwitterはAIにとってかなり学習に適した環境と言える。砕けた文章に、毎月5億5000万人がログイン、スパムアカウントも膨大な数がいる。AIにこれらを学習させ、平和なSNSへと変化させることの実現可能性はかなり高い。
元OpenAI役員のマスク氏は「打倒ChatGPT」を掲げ、xAIを立ち上げた。すでに規約も変更済みでXを使ったAI学習はいつでも開始できる段階にある。

1年間、マスク氏が舵を握って分かったこと

マスク氏が1年間社長をやって分かったことは、やはり優秀な実業家であるということ。Twitterの「ビジネス的価値」を驚くほど正確に分析している。来年には黒字化まで達成しようとしているのだ。

本社に輝くXのロゴ

ただその一方で、「Twitter」の文化に対する理解は乏しい。ビジネス的価値を分かっていると言うのは、裏返せばTwitterを単なる道具としてしか見ていない。
14年間「Twitter」が好きだったユーザーはマスク氏に対して大きな不満を持つだろう。

いまだにトレンドに入る際は「X」ではなく「Twitter」だ。ただし、いくら騒いでもマスクがそれを変えることはない。XとTwitterは別物で、昔の は解放されたという考えにシフトしなければいけない。

これから、「Twitter」は不便になり、「X」は便利になっていく。我々ユーザーは「何か」を捨てなければならないのではないだろうか。

社内でも分断の兆し

X社内ではマスク氏の後継のCEO、リンダ氏との間で方針が食い違っていることがしばしばある。例えばX有料化。これにはリンダ氏は反対している。仮に対立の構造が鮮明になり、マスク氏がリンダ氏を切れば間違いなく社内は混乱し、溝が生まれる。1年以上、耐え続けてきたXにはそろそろガス抜きが必要なのかもしれない。

リンダCEOとマスクCTO(WSJよりURL転送)

シリコンバレー担当、東京総合 = namiten

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