ソニーG、1年ぶり時価総額2位返り咲き 「IP」に昂る市場
【東京本局 = 東証】(プライム、コード6758など、大引け)東京株式市場で26日、ソニーグループの時価総額が三菱UFJを抜いて2位に返り咲いた。同社が終値で2位を奪還するのは昨年2月15日以来、1年振りだ。「ものづくりからIPへ」を掲げて1年。積極的なM&Aによる事業拡大や株主還元に重点を置き、投資家の見方を覆した。

足元の業績は市場の予想を遥かに上回って堅調だ。今月13日には、24年10〜12月期の連結純利益が前年同期比2.7%増の3737億円だったと発表した。加えて25年3月期(今期)のグループ連結純利益が従来予想の9800億円から1000億円上振れ、1兆800億円になる見通しも公表した。4期ぶりに最高益を更新する。24年10〜12月期の連結純利益を15%の減益、通期純利益で1兆292億円と見込んでいた市場は肩透かしをくらい、翌日の株価は8.7%高と急伸した。
東京証券取引所とQUICKによれば、25日の東京株式市場でソニーGの時価総額が23兆4000億円となり、三菱UFJの23兆1700億円を上回った。この日は前日の米株式市場の下落を受けて両銘柄ともマイナススタートだったが、ソニーGは後場に上昇に転じた。
ソニーGは1年前、24年3月期(前期)の4〜12月期決算が市場予想を大きく下回ったことで急落し、時価総額2位を三菱UFJに明け渡した。昨年6月には日立に時価総額で抜かれた。2015年以来、9年ぶりの出来事だった。21〜23年にソニーGがレンジ相場で足踏みしているのを尻目に、日立は弛まぬ構造改革の成果が花開き、ここ数年で株価が大きく上昇した。世界が空前の生成AIブームに沸いたことも日立には好材料だった。生成AIに欠かせない電線事業や利益率の高いITセグメントが伸びた。
方向性にも違いが出た。ものづくり企業としての地位を固めた日立に対し、ソニーGはIPに注力する姿勢を鮮明にした。主力のゲーム事業や、音楽・アニメ事業を強化する。エンタメ事業がグループの営業利益に占める割合は近年6割前後で落ち着いている。昨年1月、ソニーGの吉田会長は日本経済新聞の取材に「18〜23年の6年間でIP関連のM&Aに1.5兆円費やした。クリエイターに『ソニーGはIPの価値を最大化してくれる』と思われる会社になりたい」と答えた。競争力が落ち込んでいる金融や製造業からソフトウェアへの転換を図る。
ソニーGは25年3月期(今期)〜27年3月期までの3年間で1.8兆円を成長投資に費やす方針だ。1月には豊富なIPや複数のアニメ制作会社を束ねる出版大手KADOKAWAに追加出資し、10%を保有する筆頭株主になった。
海外でアニメ事業が伸びていることも業績を後押しする。日本貿易振興機構(JETRO)によると、北米のアニメ市場規模は足元の35億ドルから30年には約100億ドルまで膨らむ見通しだ。世界平均を上回って成長し、旗振り役として市場をけん引する。ソニーGは21年に海外でアニメ配信を手掛けるクランチロールを1300億円で買収した。コロナ禍に海外でのアニメ需要が急激に伸びたが、今後も海外展開の柱としてソニーGの収益基盤を支える。
ゲーム事業では発売から4年が経過したPS5の販売が好調だ。値上げを実施したことで採算が改善し、収益を押し上げた。24年10〜12月期の世界販売台数は950万台と前年同期から16%増加した。会員向けサービスの月間アクティブユーザー数も1億2900万アカウントと過去最高を更新した。
株主還元も強化している。昨年5月に2500億円の自社株買い枠を設定したのに加え、昨年12月に1.5%の自社株を消却。13日には新たに500億円の自社株買い枠を新設した。両枠をあわせた発行済み株式に対する割合は3%に迫る。今期中間末には株式分割を実施し、140万円だった最低投資金額は30万円前後に下がった。東証は最低投資金額について10万円以上50万円未満を推奨している。これを満たす形での分割で、流動性の確保や投資家層の拡大を狙った。
エンタメ関連株は米関税の影響を受けづらいのも投資家の評価をかさ増ししている。輸出関連銘柄の筆頭格である自動車や鉄鋼銘柄が総じて下落している一方、任天堂が入る「その他製品」や東宝・東映アニメなどエンタメ株「情報・通信」が上昇している。「電気」は横ばいだが、ソニーG株はセクターに対して逆行高となっている。
4月からCEOに就く十時裕樹氏は「多様な事業と人材の融合」を打ち出し、グループの相乗効果をさらに高める構想を描く。グローバルで活躍するIPの会社を名乗るならば、まずはディズニーの背中に追いつく・追い越す必要がある。ディズニーの時価総額は26日時点で29兆8817億円。為替によって大きく変動するが、少なくとも株価を4860円まで伸ばす必要がある。足元の水準から3割高い。各事業間の相乗効果をさらに高めることが急務だ。特に近年急成長するアニメIPの活用が鍵を握りそうだ。