公取委、アニメーターの労働実態調査へ 独禁法違反「しきたり」根強く
【東京本局 = エンターテインメント】公正取引委員会は29日、アニメ制作現場の実態調査に着手したと発表した。契約書面の不備や不当に低い対価の強要、無償での作業指示など、制作会社とアニメーター間の取引で独占禁止法に抵触する可能性のある行為が対象になる。
調査結果は25年内に報告書として取りまとめる方針だ。NAFCA(東京・練馬)など業界団体も同様の問題を主張するなど、業界内で「しきたり」として強く染み付いている可能性がある。
藤本哲也事務総長は記者会見で「クリエーターの創造性が最大限発揮される取引環境の整備が不可欠だ」と強調した。公取委は専用の情報提供フォームを設置し、制作現場で働くクリエーターらから広く情報提供を募る。
公正取引委員会の情報提供フォームはこちら
映画・アニメ分野の制作に携わるクリエイターと制作会社との取引等に関する情報提供フォーム
公取委より:情報提供に際しては、調査業務を効率的に行うために、可能な限り、電話ではなく情報提供フォームを御利用いただきますよう御協力をお願いいたします。
事例としては「契約書や発注書面がない」、「発注者から一方的に著しく低い対価を押し付けられた」、「理由なしに発注を取り消された」、「対価なしに修正を求められた」、「スケジュールを押し付けられた」などを挙げた。
NAFCAやJAniCA(東京・千代田)といった業界団体によると、アニメーターの23年の平均給与は民間平均とほぼ同じだった。
ただ第2原画や動画などの役職は給与が依然として低い状態が続いている。JAniCAによると、第2原画は155.7万円、動画は263.2万円、制作進行が325.6万円だったという。NAFCAの調査では、アニメーターの半数以上が東京の最低賃金以下での労働を強いられているという。
政府は先に発表した新しい資本主義実行計画の改訂案で、映画・アニメ分野のクリエーター保護に向けた取り組みを明記。自民党も28日、林芳正官房長官がコンテンツ産業振興議員連盟の会長に就任するなど、官民挙げての環境整備に乗り出している。
公取委は昨年、芸能事務所と俳優の一部契約を巡って独占禁止法に抵触する可能性があると発表した。他事務所への移籍などが対象となった。エンターテインメント分野での取引適正化に向けた取り組みを強化している。