アニメーターの労働環境、業界団体で認識に隔たり NAFCAが日本動画協会に異論
【東京本局 = エンターテイメント】アニメーション業界の労働環境を巡り、業界団体間で実態認識に大きな隔たりが生じている。制作会社で構成する日本動画協会(東京・文京)は「アニメーターの待遇は改善傾向にあり、民間平均と遜色ないレベルに迫っている」との認識を示す。一方、アニメーターなど個人が加盟する日本アニメフィルム文化連盟(NAFCA、東京・練馬)は27日、日本動画協会の見解に対し、独自調査に基づく反論を展開した。労働時間は法定上限近くまで及び、給与も最低賃金を下回ると主張した。
日本動画協会は24日発表した「アニメーション業界の労働環境調査」で、NAFCAの実態調査を引用し、アニメーターの年間労働時間が2,623時間であると報告した。同協会は法定労働時間の上限(2,085時間)を超えているものの、労使が合意して可能な時間外労働の範囲内(2,805時間)であるとの認識を示した。
これに対しNAFCAは、2,623時間という数値は「平均値」を基に算出されたものであり、極端な値の影響を受けにくい「中央値」を基に休日の日数を加味して算出すると、労使協定で定められる上限値2,805時間に迫る結果になると指摘。業界全体の71.4%が1日8時間以上、30.4%が10時間以上働いていると回答しており、深刻な長時間労働の実態を訴えた。日本動画協会が引用しているデータが実態を反映していないと批判した。
給与水準を巡っても両団体の主張は真っ向から対立している。NAFCAの調査結果によると、アニメーター全体の37.7%が月収20万円以下にとどまり、特に20代では13%が月収10万円未満、67%が月収20万円未満と回答。時給換算では600円~800円相当が14%を占め最多となり、中央値でも1,111円と、東京都の最低賃金(1,113円)を下回る深刻な実態が明らかとなった。
一方、日本動画協会は最新のレポートで、給与水準の改善を強調する。同じくアニメ業界団体の日本アニメーター・演出協会(JAniCA、東京・千代田)の調査を引用し、アニメ制作者の平均年収は2008年の250.2万円から2023年には455.5万円まで改善していると指摘。2023年の民間給与平均458万円(平均年齢47歳前後)と年齢に伴う昇給を加味して比較した場合、アニメ制作職(平均年齢38.3歳)の実質的な収入は民間平均を上回るとの分析を示した。
ただ、職制による収入格差については課題として認識しているという。JaniCAの調査では、キャラクターデザインの年収が586.4万円であるのに対して第二原画は155.7万円と、開きが約430万円に達している。特に動画や第二原画については、「2009年と比較して大幅な改善は見られる」ものの、依然として「世間並み」の水準には達していないとした。
要因として「アニメーターの技術習熟度により作画枚数に差が生じ、結果として出来高報酬に影響が出る」ことを挙げる一方、改善に向けては「アニメーターの育成と適切な収入を確保できる雇用条件の整備が求められる」と述べるにとどめ、具体的な提言などは控えた。
(JaniCAアニメーション制作者実態調査2023より一部抜粋)
監督 | 787万円 |
キャラクターデザイン | 586.4万円 |
原画 | 399.8万円 |
3DCG | 353万円 |
第二原画 | 155.7万円 |
さらに、アニメーターへの収入分配に関する議論が、メディアによる「人手不足」主張が一人歩きしているとし、「当事者である制作者と製作委員会による交渉・折衝が不可欠」と、一方的な提言には限界があるとの認識を示した。
NAFCAは、世界的に評価の高い日本のアニメ産業について「現場のクリエイターたちがこのような状況では、今後も質の高い作品を継続的に生み出すことは困難」と警鐘を鳴らす。その上で、アニメスタジオへの知的財産権の付与率を制作物の1~3割とすることや、テレビシリーズ1話あたりの最低受注額の設定、新人育成支援のための補助金制度の創設など、具体的な改革案を提示している。