Spotifyが動画広告の導入検討 生成AIを活用した広告制作機能も
【欧州本局 = スウェーデン・東京本局 = エンターテインメント】
Spotifyが動画広告の導入を検討する。音楽アプリは他のSNSアプリより使用時間が長い傾向にある。TikTokやInstagramと比べて広告の注目も得やすい。広告市場での存在感を高め、収益源の多角化を模索する。主要SNSアプリと比較して2倍のエンゲージメントを得ることを目標にする。
Spotifyはかねて広告収入を全体売上の20%まで高める方針を示してきた。現在は全体の12%にとどまるほか、伸び率も年々鈍化している。市場調査会社Emarketerによると、同社の2024年の広告収入予想は20.6億ドル(3170億円)。Pinterestの36.5億ドル(5620億円)やMetaの1541.6億ドル(23.7兆円)を大きく下回る。
一方、ユーザーの1日あたりの平均利用時間は約2時間に及び、Instagramの30分を突き放す。加えて全体の92%のユーザーが日常的に利用すると回答していることから、広告効果は大きいと見られる。広告単価を競合の類似広告より高く設定することも検討する。
企業名 | アプリ平均使用時間 | 広告売上 |
Spotify | 2時間12分 | 20億ドル |
Meta (グループ全体) | 22分 (Instagram) | 1592億ドル (Q3の年換算) |
1時間17分 (YouTube) | 2634億ドル (Q3の年換算) | |
ByteDance | 44分 (TikTok) | 1460億ドル (H1の年換算) |
「主力の有料会員は安定的な収益源だが、成長の余地は広告事業にある」と複数の関係者は指摘する。同社は6月、社内に広告制作を専門とする部署「Spotify Creative Lab」を設置した。
動画広告の導入に踏み切る背景にはユーザー数の伸び悩みがある。
Spotifyが12日発表する24年第3四半期決算は、有料会員数が前年同期比11%増の2億5100万人前後で着地する見込みだ。増加率は21年の19.4%増をピークに鈍化が続いている。会員を増やす方針から1人当たりの課金額(ARPU)を押し上げる戦略への転換を図る。
計画の柱に据えるロスレス音源の提供は年内を計画する。音質にこだわるユーザー向けの高額プランとして提供する。既存プランより月額5ドル程度高い価格を想定する。Apple MusicやAmazon Musicが標準プランで提供するHi-Res機能に対抗する。一般より長く音楽を聴く利用者は「スーパーユーザー」と呼ばれ、より長期的な契約を見込める。スーパーユーザーの取り込みは安定的な収益確保に直結する。
無料ユーザーの状況はより深刻だ。24年第2四半期のアクティブユーザー数は、前年の25%増から11.3%増に急低下した。無料ユーザーは元々採算が取れず、Spotifyが赤字を引きずる大きな要因となっていた。ダニエル・エクCEOは2030年までに10億人のユーザー獲得する目標を掲げる。10月末時点の月間アクティブユーザー数は6億3900万人になる見通しで、このペースでは目標達成は容易ではない。拡大が見込めないユーザーの積み増しにではなく、1人当たりの利益を増やす方向に貴重な資金を投下したいと見られる。
サービス面でも攻勢を強める。今年3月にはアプリ内でTikTokのように縦スクロールで曲を次々に試聴できる機能を導入した。MVの再生機能も追加し、無料ユーザーを取り囲むYouTube Musicから消費者をもぎ取る。
広告主向けの営業も本格化する。従来のような広告代理店経由の取引に加え、中小企業向けの自動化広告プラットフォームを整備する。生成AI技術を活用した広告制作支援ツールの開発も進める。市場関係者は「デジタル広告市場が全体的に伸び悩む中、新たな収益源の開拓は不可欠だ」と指摘する。