日本アニメ、市場規模初の3兆円台 円安追い風、海外けん引
【東京本局 = エンターテインメント】アニメ制作会社などで作る日本動画協会は1日、2023年のアニメ市場規模が前年同期比14%増の3兆3465億円になったようだと発表した。2023年の通期為替レートが142円と、前の年と比べて10円程度のドル高・円安だったことを背景に海外売上比率が伸びた。世界的なアニメブームも追い風だ。グッズをはじめとした商品化事業も大きく伸び、海賊版被害を吸収する。
史上初めて3兆円の大台に乗せたほか、海外売上が51%と国内売上を上回った。『薬屋のひとりごと』や『【推しの子】』が記録的なヒットを見せた。『呪術廻戦』や『鬼滅の刃』など、続編タイトルもヒットを飛ばした。
帝国データバンクが7月に発表した同年の「アニメーション制作」の市場規模は3400億円と、前年を23%上回った。24年は横ばいの3400億円になる見通しとした。過去最高水準での推移が続く。テレビ向け制作が堅調に推移する。賃上げによる人件費の増加やアニメーター不足が下押しするが、Netflixを始めとした海外配信サイトの大型案件が補う。23年は『すずめの戸締り』を筆頭に劇場版が好調だった。
アニメ制作を行うIP関連企業は好業績をまい進する。東映アニメーションは今期中間決算の連結営業利益が50%増の66.8億円だった。配給大手の東宝は同33%増の409億円だった。『ハイキュー!!』や『名探偵コナン』などのアニメ映画が洋画不振をカバーした。出版からアニメ制作、著作権管理を一貫して担うIGポート(傘下にProduction I.G.)は24年5月期の連結純利益が51%増だった。サイバーエージェントをはじめ、IP関連事業を強化する企業も相次いでいる。
アニメを視聴する外国人は増えている。米国の調査会社は2023年に最も視聴されたテレビ番組に『呪術廻戦』を選んだ。この年は非英語コンテンツが大きく伸長し、取り分け日本発のコンテンツがトップだった。日本貿易振興機構(JEITRO)は7月に発表したレポートで、北米地域のアニメ市場規模が2030年時点で99.4億ドルに拡大するとの見通しを示した。足元の34.6億ドルから7年で3倍になる。年平均の成長率は16.3%と着実に拡大し、100億ドルも射程に入るとした。サウジアラビアのムハンマド皇太子を筆頭に、海外の有力者の間でも日本のサブカルチャーが広く浸透する。
国も支援する。関係省庁で作る知的財産戦略本部は6月、新クールジャパン構想を策定・公表した。2033年に日本発のコンテンツ市場規模を現状の4兆円から20兆円に高める計画を打ち出した。9月には深刻化するアニメーター不足の解消に向けた官民協議会を設置した。人材の育成や下請けやフリーターに圧力をかかる働き方の改革について議論する。岸田首相(当時)は協議会の設置にかかり、「コンテンツ産業は鉄鋼や半導体に匹敵する輸出規模がある」とコメントを出した。
海賊版被害も対策が進む。集英社や講談社、小学館は、英語版の漫画連載が遅れる仕組みの是正に努める。世界同時に作品を公開する取り組みを進め、原作に先行して翻訳を行う海賊版を抑え込む。生成AIも活用して翻訳対象の作品を順次増やす。今年春に放送されたアニメ怪獣8号は、地上波放送に加えてX(旧Twitter)のライブ機能を使った世界同時配信を行った。
制作現場も工夫を凝らす。ソニーGは5月の経営方針説明会で、アニメ制作に使うソフトをいちから開発していると発表した。アニメの原画や仕上げ工程に特化したソフトを開発することで、問題となっている長時間労働を軽減する狙いがある。
制作会社のM&A(合併、買収)を通じた業界再編が進む。KADOKAWAは7月、『【推しの子】』や『夜のクラゲは泳げない』で知られる動画工房を買収した。同社が持つIPや制作能力を評価した。買収額は非公表。バンダイナムコも『ブルーロック』で知られるエイトビットを買収し、自社商品との連携を図る。各社は買収で人手不足の解消につなげたい考えだ。