N高、生徒数3万人突破 高校進学率下押し、課題山積み
通信制高校のN/S高を運営する角川ドワンゴ学園は2日、同高校の生徒数が3万人を突破したと明らかにした。全国の高校生はおよそ290万人で、高校生全体に対するシェアが1%を超えたことになる。全国にある高校およそ5600のうち、そのうち通信制は4%。一方で生徒数ベースでは8.9%が通信制が通い、全日制高校から生徒を吸い上げ続ける構図が浮かぶ。全日生の高校から生徒数が減れば、総合型などで必死になってヒトを取り囲むゾンビ大学と同じ構造になり、高校の質が下がりかねない。
角川ドワンゴ学園によると、8月30日時点の生徒数が3万0137人となり、高校としては初めて3万人の大台を上回ったという。昨年度のデータが5月のもののため単純比較はできないが、1年間で生徒を6000人増やした。前年度比の増加率は20%と、開校以来初めて上向いた。来年度にはR高を群馬県に新設し、更なる勢力拡大を図る。
通信制に通う生徒が増えて影響を受けるのが高校進学率だ。文科省発表の令和5年度学校基本調査によると、N高をはじめとした通信制高校を除く進学率は93.5%とおよそ30年ぶりの水準に落ち込んだ。当時は通信制がほとんど普及しておらず、実情は30年前より低い水準だとの声も上がる。文科省は学校基本調査の報道発表向けのグラフに通信制を含まない(別記)方式を採用しており、日本の進学率が下がっていると誤解されかねない。
少子化が進む中、飽和状態の大学では新入生確保に躍起になっている。総合型や指定校推薦の枠を増やし、2022年度には共通テスト(旧センター試験)を受験して入学する「一般入試」の割合が半数を割った。高校でも、施設規模の制限をほとんど受けない通信制に受験生が一極集中すれば、ゾンビ学校が増加する可能性もある。
通信制高校には課題が山積みだ。N高は6月、ドワンゴが受けたサイバー攻撃で学習に使う「N予備校」が一時使えなくなった。6月は、10月入学生の最終レポート締切日だった。これを過ぎると単位取得に関わる「単位認定試験」の受験資格を得られなくなる。また、受験生が指定校推薦を受ける場合に必要と定める8月分レポートの締切月だった。ドワンゴは最優先で同ツールの復旧を進め、レポート締切日を延長する異例の策を後日発表したが、対策は後手に回ったとの見方は否めない。
教職員のセキュリティ意識も浮き彫りにした。件のサイバー攻撃では、N高のサーバーは標的にされておらず、当初は「生徒情報の流出は確認されていない」との見解を理事長が発表していた。しかし、一部の職員が生徒の個人情報や調査書を標的となったサーバーに移していた事が判明。卒業生を含む多数の生徒情報が知らぬ間に満天下にさらされていた。生徒への情報提供も二転三転し、理事長はTwitter上で謝罪したが、かえって不安を煽る結果となった。
教職員と生徒のコミュニケーション不足も大きな課題だ。N高ファミリーは来年度から定期テストを必修化し、生徒の学習状況を担任が把握しやすいように改善する。しかし、7月に投開票が行われたN高生徒会役員選挙では、一部の候補が「定期テスト必修化取り下げ」を掲げて出馬しており、生徒側の反発は強い。N高は生徒会予算を年1000万円に設定するなど、生徒の自由度を重視してきた。今回、その生徒会の役員を決める「一丁目一番地」で学校側を非難する生徒が現れた懸念は強い。学校側はN高生全員が使うSlackで、定期テストは「成績には一切関係なく、勉強も必要ない」ことを強く周知した。
【本部 = 論説】
高浪天冴