Threads提供開始1年 方向性見えず迷走、楽観姿勢が露呈
【東京総合 = テクノロジー】Metaが立ち上げたテキスト型SNS「Threads」が、4日で提供開始から1年を迎えた。当初は「Twitterキラー」として期待を集めたものの、エンゲージメントの低下や開発の遅れに苦しみ、ユーザー数は底割れしている。
Threadsは2023年7月、Twitterの混乱に乗じる形でサービスを開始した。当時、イーロン・マスク氏の買収によって混乱に陥っていたTwitterへの不安を象徴するかのように、わずか5日間で1億ユーザーを獲得。当時最速だったChatGPTが達成した3ヶ月半の記録を大幅に塗り替える爆発的な立ち上がりを見せた。しかし、その後の成長は鈍化の一途を辿り、BBCやYahoo!など主要メディアの公式アカウント閉鎖が相次いでいる。
MetaのテキストSNSに対する楽観的な姿勢が低迷に繋がった。まず挙げられるのはハッシュタグ検索機能の遅れだ。ユーザーが特定のトピックを追跡する際に重宝されるこの機能だが、1年経ってもThreadsは実装していない。特にテキストSNSの主要市場である日本は、言語構造からハッシュタグを使うことが多い。単語同士の間にスペースを設けないため、投稿文とハッシュタグを使い分ける文化が根付いた。
「現在」が生命線とも言えるテキストSNSにとって不可欠なトレンド機能の全世界展開も遅れている。当初構想していたブロックチェーン技術を活用した分散型SNSへの移行も進まない。
開発者支援も十分に行わなかった。APIの提供に1年を要したことで、サードパーティアプリやツールの開発が進まず、プラットフォームの魅力向上や機能拡張の機会を逃した。長年にわたって開発者に友好的な関係を築いたTwitterとは対照的だ。Twitterが多様なアプリケーションやサービスを生み出したを考えると、運営中心の方針が裏目に出ていると言わざるを得ない。
Metaは「時間」の重要性を見誤った。InstagramやFacebookを運営してきた経験から、写真や動画を中心としたSNSのノウハウは豊富に持ち合わせている一方で、テキストSNSの特性を十分に理解していなかった。TikTokが時間を徹底的に排除してリーチ(拡散)に注力したのとは対照的に、テキストSNSでは数分、数時間の流行が表示回数を大きく左右する。トレンド機能の導入の遅れは、この認識の甘さを象徴した。
一方、ライバルのX(旧Twitter)は、イーロン・マスク氏の問題発言やシステム障害の頻発などに見舞われたものの、18年間で築き上げたTwitterブランドの力強さは健在だ。マスク氏就任前と比較してユーザー数はむしろ増加している。広告主が離反する事態も起きたが、概ね回復した。2024年3月期中の黒字化は果たせなかったものの、今年中の四半期ベースでの黒字浮上を狙う。
今年後半には州間を跨いだ送金機能を米国で開始する。準備が整い次第、銀行事業やデビットカード事業にも参入する方針だ。インターネット事業単体で黒字化を狙うのではなく、マスク氏の得意とする多角的な経営に舵を切る。
AI事業にも力を入れる。Metaに対抗する形で生成AIをオープンソース化した。NVIDIAのデータセンター向けGPU「H100」を大量購入し、プライベートな生成AIの学習・推論環境を整えた。今季中にはGPT-4に匹敵する性能を備えた「Grok-2.0」の提供を開始する見通しで、年末から来年初頭にかけては、より高性能なGrok-3.0の提供にこぎつける。
翻って、Threadsは不透明感が漂っている。Metaは、InstagramアプリへのThreadsショートカットボタンの追加やApp Storeでの広告展開など、ユーザー獲得に向けた施策を展開しているものの、その効果は限定的だ。新機能は有料プランの導入やXの機能を模倣したものばかりで、差別化戦略も迷走している。決算発表では、株主からの反発を懸念してか、Threadsへの言及を控えめにし、「MAUが1億人を超えている」と強調するにとどまっている。
BlueskyやMastodonなど、Xがトラブルを起こす度に話題になった「次世代型」を謳うSNSは、ことごとく期待されたほどの成長を遂げられずにいる。Threadsもまた、これらの轍を踏む可能性が高まっている。