総務省、衛星通信に新免許制度 携帯回線網の死角を解消へ
【東京総合 = テクノロジー】総務省が衛星通信を活用した新たな携帯電話サービスの法整備に乗り出す。日本経済新聞電子版は24日、イブニングスクープで、同省が今秋にも新たな免許制度を創設し、年内をめどに通信会社からの申請受け付けを開始する方針だと報じた。
スマホの設計販売を手がける米Appleは、一昨年発売のiPhone14で衛星通信を搭載しており、すでに米国でサービスを展開している。Googleが開発するオープンソースのスマホOS「Android」も対応を急ぐ。端末側での普及は急速に広まっており、法整備の遅れが足を引っ張っていた。
新免許創設の背景には、地上の基地局が設置できない山間部や離島、さらには災害時の通信確保といった課題がある。衛星通信を活用することで、これらの「通信の空白地帯」を解消できると期待されている。
この分野で先行しているのが、楽天モバイルだ。同社は米AST SpaceMobileと提携し、2026年内に日本国内でサービス提供を目指すと発表している。楽天の三木谷浩史会長兼社長は今月、ネットメディアのインタビューで「2026年には衛星からの直接ブロードバンドを始めようと思っいる。そうなった場合は、いわゆる人口カバー率ではなく面積カバー率100%を目指す。楽天モバイルが圧倒的なカバー率になる日がもうすぐ来る」と意気込みを語っていた。
楽天モバイルの計画によると、特別な機器を必要とせず、既存のスマートフォンで衛星と直接通信できるサービスを目指している。これが実現すれば、山岳地帯や離島、さらには災害時の通信確保など、従来の携帯電話網では対応が難しかった課題を解決できる可能性がある。
同社は既に2022年11月に実験試験局の予備免許を取得しており、福島県内に設置したゲートウェイ局と北海道内山間部での実証実験を計画している。さらに、楽天グループの強みであるソフトウェア技術を活かし、衛星システムに各種ソフトウェアを組み込むなど、技術面での準備も進めている。
一方、競合他社の動きも活発化している。KDDIは米Space Xと提携し、衛星通信サービスの実施を表明。NTT Docomoも「空飛ぶ基地局」と呼ばれる高高度通信プラットフォーム(HAPS)の開発を進めており、2026年のサービス開始を目指している。
業界関係者からは、「衛星通信の実用化は、モバイル通信の新たな時代の幕開けとなる可能性がある」との声が聞かれる。半面、「初期投資の大きさや運用コストの問題、さらには電波干渉の課題など、クリアすべき技術的・経済的なハードルは依然として高い」との指摘もある。
総務省の新たな免許制度は、こうした課題に対応しつつ、新技術の導入を促進することを目的とする。使用する周波数帯や電波の出力などの技術的要件を定めるとともに、安全性や信頼性の確保にも重点を置く見込みだ。
衛星通信は、通信インフラのあり方を根本から変える可能性を秘める。山間部や離島などの条件不利地域における通信環境の改善はもちろん、災害時の通信確保、さらには将来的なドローンや自動運転車両との連携など、その応用範囲は広大だ。
一方で、宇宙空間の混雑や宇宙ゴミの問題、さらには通信の安全保障上の懸念など、新たな課題も浮上している。政府には、これらの課題に対する包括的な対応が求められる。