【WWDC24】盛り上がり欠ける開発者会議 「後出しジャンケン」で負けた時

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 Appleが開発者会議「WWDC24」で発表した「Apple Intelligence」は、同社の生成AI分野での遅れを改めて露呈した。ライバルであるMicrosoftと蜜月のOpenAIの「ChatGPT」に頼っていては、革新的なアイディアで市場を覆してきたAppleの面影を感じさせない。

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「これからも特化した外部のAIモデルを利用する」

 WWDC24で、ある発言に注目が集まった。幹部が「これからも専門性のある外部のAIモデルを使用していく」と述べたのだ。大方はてっきり、OpenAIとの提携はあくまで一時的な方便であって、Appleは独自のLLM開発に注力して巻き返しを図ると予想していた。

クレイグ・フェデリギ上級副社長

 しかし、Appleは当面、自前のLLMを開発する意欲をあからさまに見せていない。少なくとも短中期的には、生成AIの分野で独自路線を進めるつもりはないということだ。これに肩透かしを食らった株式市場は、Apple株を2%安まで売り込んだ。

 LLMを開発をしない方針を今後維持するならば、Appleのビジネスモデルの根幹を揺るがしかねない。Appleはこれまで、革新的なアイデアで市場の流れを変えてきた。既存の技術と技術を組み合わせて、大ヒット商品を生み出してきた。GUIを導入したMacから、初代iPhone、iPad、Apple Watch。いずれもAppleの独創性が生み出した成果だった。

先見据える力

 しかし、いくら斬新なアイデアがあっても、それを実現するための基盤が不可欠だ。現にAppleは生成AIで基盤となるLLMを自前で用意できていない。外部に頼らざるを得ないのが実情だ。

 今までは、その専門的な技術を持つ企業を買収することでその問題を解決してきた。ただこのご時世、M&Aで技術を獲得することに対する抵抗感がApple社内に芽生えている。大型買収には規制当局の厳しい目が光るからだ。スタートアップが急成長している生成AI市場ではなおさらだ。

 その一方で、契約先として最有力候補と目されてきたGoogleとの提携は断念した。両社の検索エンジンを巡る契約を巡って、独禁法違反の疑いが取り沙汰されたためだ。

 革新的なアイデアやApple製品のエコシステムだけでは、遅れを取り戻すピースに欠ける。今まで当然のようにやってきたことができなくなってしまったのだ。ハードウェアとソフトウェアを自社内で一気通貫で手がけ、他社には真似できないユーザー体験を提供する。それはAppleの成功を積み上げる根幹にあった。Appleは今回、委託先としてOpenAIを選んだわけだが、外部の、しかもMicrosoftの事実上の傘下にある企業の基盤を組み込むことのリスクは大きい。

ライバルの事実上の「子会社」

 OpenAIはMicrosoftにジリジリと目に見えない形で、しかし侵略されている。Microsoftは十数兆円規模の投資資金をOpenAIに振り向けている。

昨年にあった、OpenAIのサム・アルトマンCEOの解任劇が侵略を尊重したと言えるだろう。突如として営利部門のCEOを解任した理事会に社員が反発し、復帰させなければサム・アルトマン氏とMicrosoftへ行くとの署名活動を開始。大半の社員がそれに賛同する事態となった。この間、数兆円規模の投資を行っていた企業が不安定な事態になっているにも関わらず、Microsoftの株価は急騰した。社内に取り込んだ方がMicrosoft的に中長期的なメリットがあると市場が判断ことになる。

 先月20日に発表されたMicrosoft Copilot+PCも、OpenAIの強力なサポートあってこそだ。過去に画面上に映ったものをAIが監視し、「〇〇についてのファイルはどこ?」などと聞くと、ファイルをAIが探して提示してくれる「リコール」機能が目玉だった。MicrosoftがOpenAIの営利部門に初めて投資したのは、2019年だ。そこから続く蜜月は、Appleが割り込んで壊せるものではない。Microsoftが一度、手を振りかざせば性能の低いモデルしか提供されなくなってしまうかもしれない。

 内部に取り込めず、しかも選んだ相手がGoogleではなくOpenAIだ。外部環境に新機能の中核を置き、しかも一瞬で壊される可能性があるというのは、リスクが大きいだろう。全ては、十数年前から静かに始まっていた生成AI競争にまるで興味を示さなかったことが、今の乗り遅れを生んだ。

新製品、相次ぐ苦戦

 生成AIの乗り遅れは、近年目立つAppleの苦戦と無縁ではない。電気自動車(EV)開発の「Apple Car」計画は、幾度となく挫折と迷走を繰り返し、結果プロジェクトは凍結してしまった。二転三転して足踏みしている間に、世界からEVブームは過ぎ去った。中華勢が大量に生産し、急速に需要を吸い尽くしたのだ。テスラの株価は暴落している。

 Apple Carを手掛けていた開発者の一部は、生成AI部門に異動したとも伝えられる。Appleの主力事業であるiPhoneの販売が頭打ちになるなか、次の成長の柱として期待されていたEV事業。しかしAppleは、自動車業界特有のサプライチェーンの構築や規制への対応に苦慮し、計画は遅々として進まなかった。

 一方、複合現実(MR)ヘッドセット「Apple Vision Pro」は、なんとか発売にこぎつけたが、盛り上がりに欠ける印象だ。Apple Carと同じように、発表時にはもうブームは過ぎ去った。当然市場の反応は芳しくない。日本での販売価格は59万9800円から。一般消費者にとっては、あまりにも高すぎる。後出しジャンケンで商品を世に送り出す際、ジョブス氏が重要視していたコスパを無視した。

 EV、VR、生成AI。Appleは次の成長分野と目されたこれらの領域で、明確なビジョンを打ち出せずに散った。社内では、AIに対する懐疑的な空気が蔓延していたという。一時はSiriの大幅なアップデートを計画していたものの、社内で否決されたとの報道もある。

 スティーブ・ジョブズ氏の死後、Appleは先見性を失った。もしくは気づくのが遅れるようになった。どれも成長を終えてから、参入したからだ。今までは、Appleが先陣を切って成長分野に引きずり出していたのが、成長を終え枯れかけているものに投資するようになってしまった。

 今のAppleに、先を見据える力は残っているのだろうか。時価総額では、MicrosoftとNVIDIAに抜かれ、一時3位に転落した。

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生成AI、多くの人が使うきっかけに

 とはいえ、俯瞰して見れば、こうしたAppleの苦境はそこまで重要ではないかもしれない。生成AIを通じて、より多くの人々がAIのメリットを享受できるようになる。それ自体は歓迎すべきことだ。

 Appleは生成AIでも、プライバシー保護を重視すると宣言している。AppleのAI(Apple Intelligence)が、プライバシーを守りながら成長を遂げられるなら、それはある意味、Appleの理想が実現されたと言えるだろう。Appleにはもはや、AIでリードする力は残っていないのかもしれない。だが、その影響力を使って、AIとプライバシーの共存を追求し続けることはできるはずだ。

東京総合=髙浪天冴

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