小学館などがAI翻訳企業に29億円出資 漫画の海賊版被害を防止へ
【東京総合 = エンターテインメント、経済】
出版大手の小学館や政府系ファンドのJICなど10社が、AI翻訳で漫画を海外展開する新興企業のオレンジに総額29.2億円を出資することが6日、分かった。日本経済新聞電子版が同日、報じた。明日にも具体的な枠組みや計画を発表する見込みだという。日本の漫画を素早く翻訳・配信することで、海賊版の被害防止につなげる。
日本の出版業界は長年、海賊版による深刻な被害に悩まされてきた。人気作品の場合、正規の翻訳版が出る前に、ネットユーザーが無断で翻訳してしまい、無料サイトで海賊版として出回ってしまう。特に近年は、北米などでアニメブームが巻き起こり、被害は表面化している。「非英語コンテンツ」として日本発の作品が頭角を現す中で、喫緊の課題だった。コンテンツ海外流通促進機構(CODA)によると、2022年の出版分野の海賊版被害額は最大で8000億円を超える。
先日には、「漫画村」の運営者に17億円の損害賠償が東京地裁で命じられるなど、世間でも海賊版は悪とのイメージがより強くなった。大手出版社らは、「攻めの海賊版対策」に転換することで、日本の漫画・アニメなどの二次元作品文化を守る。
漫画の翻訳に時間とコストがかかる。日本経済新聞によると、70万点以上ある日本の漫画のうち、英訳されているのはわずか1万4000点ほど。海外の読者に届く前に、海賊版に回されてしまうのだ。
今回出資先に選定されたオレンジのAI翻訳技術は、この状況を変える可能性を秘める。これまでの10分の1のコストと時間で漫画を翻訳できるといい、公式の翻訳版を海賊版に先んじて出せるようにする。同社は今後5年で5万点の作品を翻訳・配信することを目標に掲げ、第一段階として今夏にも米国でのサービス展開を計画する。
正規版の海外展開を加速することは、日本の漫画産業の成長だけでなく、クリエイターの権利を守ることにもつながる。JICは「海賊版対策を通じて、日本のコンテンツ産業の競争力が高まる」と期待を寄せる。