ニュース

【Apple反トラスト訴訟(1)】司法省、スーパーアプリとクラウドゲームの開発阻害を問題視

namiten

米司法省は現地時間21日、Appleを独占禁止法の疑いで提訴しました。同省は合計で5つのトピックについてApple側を非難しています。この記事ではトピック1「スーパーアプリ」と2「クラウドゲームアプリ」について触れていきます。

【東京総合 = テクノロジー】米司法省は15の州・地方司法長官とともに、Appleスマートフォン市場の独占を図っているとして提訴した。訴状によれば、Appleはアプリ開発と配信に関する契約上の制限を課したという。スーパーアプリやクラウドストリーミングアプリなど、iPhone自体の必要性を薄れさせ、消費者のコストを削減できる画期的な技術を意図的にブロックしたというのだ。

記事のポイント
  • Appleは、スーパーアプリの普及によって、Apple純正サービスの売り上げが減少する可能性を懸念し、スーパーアプリの提供を阻害していた。
  • Appleは、GeForce Nowなどによって格安スマートフォンへのユーザー流出が起きることを懸念して、クラウドゲーミングアプリに必要以上の規制を仕掛けていた。
  • 司法省はこれらを独占禁止法に違反すると他3つのトピックと合わせて総合的に判断。現地時間21日、15の州とワシントンDCとともに連邦地裁に訴訟を起こした。
夜の香港の Apple Store ファサードにある Apple ロゴ - 2019 年 11 月
Appleのロゴ(東京総合 = 香港で11月)
広告

トピック1:スーパーアプリ

スーパーアプリとは、1つのアプリ内で様々なサービスを提供するアプリを指す。中国のWeChatのように、メッセージング、決済、ソーシャルネットワークなどの機能を統合し、ユーザーの利便性を高めるものだ。Twitterから名前を変えたXもあらゆる需要を一つのアプリで完結できるスーパーアプリを目指して開発を進めている。

米司法省は「NetflixやHuluを契約すれば、映画に限らず、芸能やスポーツ、ドラマ・アニメなどあらゆる映像コンテンツを楽しめる。彼らは映像コンテンツ界のスーパーアプリと言えるだろう。それと似ている」と説明した。しかし、Appleはこうしたアプリが普及すると、iPhoneの需要が減少すると懸念。アプリ配布と作成を管理することで、スーパーアプリの提供を事実上禁止したと司法省は指摘する。

Appleは、ミニアプリを備えたスーパーアプリが自社の独占を脅かすことを認識していた。ミニアプリとは、アプリ内にある小アプリのことだ。日本で有名なもので言えば、LINEやPayPayなどだろう。LINEはメッセージアプリの他に、スタンプやニュース、音楽、占い、LINE Pay、LINEギフトなどを提供している。
PayPayも、請求書支払いや銀行連携、クーポン、資産運用などのミニアプリ群を取り揃えている。

PayPayにはさまざまなみにアプリが実装されている。PayPayのアプリホーム画面と機能一覧画面。
PayPayにはさまざまなミニアプリが実装されている。

あるAppleの社内マネージャーは、スーパーアプリが「人々がゲームをしたり、車を予約したり、支払いをしたりする主要な玄関口になる」ことを許可すれば、「野蛮人を門の中に入れる」ことになると述べた。Appleは、アプリがミニアプリをホストすることを効果的にブロックするために、App Storeガイドラインを拡大し、積極的に実施。ミニアプリ開発への投資を阻害し、米国企業にこの技術への支援を制限させたのだ。

トピック2:クラウドゲームアプリ

クラウドゲームアプリも、Appleによって阻まれた。NVIDIAのGeForce Nowをはじめ、クラウドゲームアプリでは、ゲームをクラウド上で処理して、アプリを通してストリーミング配信される。つまり、企業の持つ高性能なコンピュータを使ってゲームを処理し、その画面を消費者のスマホに映す。スマホは映像を流せばいいだけのため、高価なスマホを購入する必要がなくなる。

GeForce NowではPCからネットワーク、ISPを通じて
高性能なサーバーに通信している(NVIDIA提供)

しかしAppleは、クラウドゲームによってハイエンドiPhoneの特別な地位が脅かされることを恐れ、サードパーティ開発者がiPhone上でクラウドゲーミングサービスを提供することを事実上阻止したという。

Appleはユーザーが高価なAppleハードウェアを購入することなく望ましいアプリやコンテンツにアクセスできるクラウドゲーミングアプリをブロックしている。これは、高価格帯・ゲーミング性能で他社を圧倒するiPhoneの独占力を脅かす可能性があるためだ。

Apple自身の言葉によれば、「誰が最も安いハードウェアを持っているかだけが重要」という世界を恐れ、「ガレージセールで25ドルのクソAndroidを買って、クラウドサービスを使ってゲームをプレイされれば、iPhoneのビジネスモデルが崩壊する」ことを懸念していた。

結果的にAppleの行動は、クラウドゲームアプリの成長を抑えることで悪化させた。Appleはクラウドゲームアプリに、自社の支払いシステムの使用を要求し、iPhone向けに大幅な改修を必要とするなど、開発者に過度な負担を課している。その結果、開発者はiOS固有のアプリを別途作成せざるを得ず、多大な時間とリソースを費やしている。

司法省は、Appleが自社の利益を守るために、イノベーションと消費者の選択を制限していると批判。「Appleは、製品を改良することではなく競争を抑制し続けることで顧客をiPhoneに囲い込み、競合他社を市場から締め出した」「Appleの反競争的行為は、消費者、開発者、アーティストなど様々なステークホルダーに深刻な損害を与えている」と指摘し、差し止めと救済措置を求めている。

コラム

クラウドゲームアプリは、ゲーム業界に大きな変革をもたらす可能性を持っている。今までは、高品質のゲームを楽しむに、高価で高性能なゲーム機やPCを用意する必要があった。しかしNVIDIAのGeForce Nowなどのクラウドゲーミングサービスを使えば、ゲームの処理はクラウド上で行われるため、ユーザーは手持ちのスマートフォンやタブレットで、グラフィック性能などのスペックに関わらず、どこでも手軽にゲームを楽しめるようになる。まさに、性能の格差をなくし、プレイヤーが平等にゲームを楽しめるようにする画期的なシステムだった。

クラウドゲームは、ゲーム開発者にもメリットをもたらす。従来は、各プラットフォーム向けに別々にゲームを開発する必要があったが、クラウドゲームならば、一つのバージョンを開発するだけで済む。また、ゲームのアップデートや新コンテンツの追加なども、クラウド上で一括して行えるため、開発コストと時間を大幅に削減できる。

しかし、こうしたクラウドゲームの利点は、Appleの独占的な立場を脅かすものだった。iPhoneユーザーが、より安価なAndroidスマートフォンでも同等のゲーム体験を得られるようになれば、iPhoneの売上に悪影響を及ぼしかねない。そのため、Appleはクラウドゲーミングアプリをあからさまに妨害してきたのだ。

訴状で指摘されているように、Appleは長年にわたり、クラウドゲームアプリの審査プロセスに不当な制限を課してきた。個々のゲームごとに別々のアプリとして審査を受けることを要求し、アップデートのたびに再審査を求めるなど、開発者にとって大きな負担となる条件を突きつけてきた。さらに、クラウドゲームに自社の支払いシステムの使用を強要するなど、開発者の自由な競争を阻害してきた。

Appleのこうした行為は、ユーザーの選択肢を狭め、ゲーム業界のイノベーションを阻害するものだ。また、高品質のゲームをより手軽に楽しみたいというユーザーのニーズにも反している。司法省は、Appleが自社の利益を守るために、消費者の利益を損なう反競争的行為に及んでいると批判しており、公正な競争環境の実現に向けて、断固とした措置を取ることを宣言している。

クラウドゲームは、スマートフォン市場における競争のあり方を大きく変える可能性を秘めている。Appleの独占的な立場が揺らぐことで、より自由でオープンな市場が生まれ、ユーザーはより豊かなゲーム体験を手に入れることができるようになるだろう。この訴訟の行方は、スマートフォン市場のみならず、ゲーム業界の未来を左右する重要な意味を持っている。

※SNSシェアの場合、必ず利用規約をご確認ください。
コンテンツの翻案、リンクを含まない引用・スクリーンショットの共有は法律・法令、当サイト利用規約で禁止されています。
サイト内PR

Google Newsでnamiten.jpをフォロー

広告
namiten.jp
namiten.jp
広報
namiten.jp広報班にお問い合せがある場合、以下の通りお願いします。

当サイト掲載情報について、法的請求がある場合…お問い合わせへ
当サイト掲載情報について、不備や依頼等がある場合…メール、Twitter DM等
広告
記事URLをコピーしました