マスク買収1年 ー 米メタ“Threads”、進む「X」化 平穏なテキストSNSどこへ
【東京総合・シリコンバレー = namiten.jp】マスク氏のTwitter買収から27日で1年が経った。買収前はマスク氏への期待が色濃かったTwitterも、今は反マスク運動で見る影もない。この1年間で数え切れないほどの変更を加えてもなお、マスクが目指す「スーパーアプリ化」の全貌は霞んでいる。
第二回は、Twitterに猛威を振るった米メタのテキストSNS「Threads」について考える。Threadsは今、アクティブユーザー数が激減し、底打ち状態。アプリの滞在時間はTwitterの1/5以下とまで言われ、世界最速で1億人を達成したネットサービスという称号は身に余っているのが現状だ。早くも生き残りを賭ける生存戦略を迫られたThreadsは「X」化に突き進んでいる。
急遽前倒しされたサービス開始
Threadsは当初、7月下旬にサービスが開始される予定だったが、API呼び出し回数制限を行ったTwitterの混乱に乗じる形で急遽前倒しで開始された。
その勢いは凄まじく、わずか5日で1億人を達成するという前代未聞の記録を成し遂げた。それまではChatGPTが2ヶ月半で1億人を達成し最速と言われていたのだから、わずか120時間で難なく突破したというのが、Twitterユーザーの不安を写している。その後もThreadsは1億5000万人程度まではスピードを維持して突き進むのでは思われた。
ーーが、現実は違った。1億人を達成してからはアカウント作成数が急速に鈍化。サービス開始から7日目には、いいねなどのエンゲージメント数が低下し始めてしまった。
さらに、一時的ではあるもののTwitterを上回っていたGoogleの検索回数は、わずか3日でTwitterに奪い返された。記事作成時点では、1:99という圧倒的な差の前に屈している。米大手新聞社やBBCの一部アカウントが運用を終了するなど暗雲が漂う。
所詮、Twitterの「代替」に過ぎず
第一回でも書いた通り、ThreadsやBlueskyなどのマスク氏買収後から話題に上がったSNSたちはことごとく沈んでいく。Twitterの「代替」と評されるアプリたちは、Twitter(X)を超えることはまずない。
14年間続くサービスの、圧倒的ブランドとの競争にあるのは断崖絶壁。所詮、代替でしかないサービスが登ることは許されない。
外部調査会社によると、11月のThreadsのDAU数は800万人程度に対して、Xは2億人を超える。滞在時間もXの方が大幅に長い。メタは必死にApp Storeや、Instagramに広告を出稿して巻き返しを図るも、アクティブユーザー数は「頭打ち」どころではない、「底打ち」状態に陥った。
公称値で比較しても、月間アクティブユーザー数は、Twitter(現X)が5億5千万人に対して、Threadsが1億人超止まり。この時点で早くもThreadsは脅威では無くなってしまった。ここからTwitterの脅威となりうるのは、自身が取り込んだマスク氏だった。
Threads、反面教師として
もっとも、Threadsが与えた影響は捨てきれない。
Googleトレンドで一時的でこそあるが、Twitterを検索ボリュームで超えたのだ。インスタグラムと連携しているからこその強さはあった。インスタグラムの利用者数は16億人を超える。インパクトだけで言えば十分だった。
マスク氏がXにリブランドした原因の一つでもある。Twitterのアクティブユーザー数が減少し始めたところに、API制限、そこに5日で1億人のユーザーを獲得したThreadsが現れれば、そこら辺のSNSならば普通に吹っ飛んでしまう。マスク氏の話題性を維持したいという性格に「焦り」を生み出す要因になったことは確かだ。
Threadsは反面教師としての役割も果たしたのかもしれない。運営する米メタ(旧フェイスブック)のCEO、ザック氏は「喧嘩のない平穏なテキストSNS」を目指して開発したと語っていた。
しかしそれは、今から見れば逆効果だった。InstagramとテキストSNSに求められるものは当然ながら異なる。そこの棲み分けを図れなかったのは最大の失敗だった。アダルトコンテンツに限らず「ショタ」などの単語を規制する動きは日本、特にMisskeyで大きな話題になった。結果、「平穏なテキストSNS」として華々しく打ち上げたThreadsは、急速なユーザー離れで見事に自由落下していった。
Threadsは他の新興SNSと同じ、吹いたら飛ぶようなサービスに仲間入りしてしまった。
構造的な違い、理解してこそ
Threadsの没落には、Meta側の考えが楽観的であったことがあげられる。
まず、Facebook、インスタグラム共に、主な繋がりは身内である。学校や職場、友人同士のつながりが多い。対してテキストSNS(Twitter)はどうか。不特定多数の人に向けて発信する。タイムラインの構造的な違いやトレンドなどの仕様も違う。
そういう意味ではインスタグラムと連携させたのは失敗だった。インスタグラムで繋がっているユーザーとツリー状でやり取りをわざわざ行うだろうか。いいや、LINEで十分だ。
2つ目は、自由に発言できるかどうかだ。Twitterは、言論の自由を追求することを使命としている。対してThreadsはどうか。Twitterと違って過激な発言はブロックされたりすることもあるし、アダルト的な発言は規制対象だ。GAFAという大きな責任を負う企業だからこそ、この方針は逆にあだとなった。
3つ目はサードパーティとの関係性だ。現在のThreadsはじめインスタグラムは、機能開発/サポートを大きく制限されている。有志らが制作したボットや拡張機能、文化が存在するTwitterとは真逆の方向性を行っている。
これらをまとめると一つに収束する。平穏なテキストSNSなど誰も求めていない。Metaはそこを見誤った。開発期間が短かったとは言っても、圧倒的な資金力があれば突っ込めるという楽観的な考え方が見え隠れする。テキストSNSに求められているものと、Metaの理想は大きくかけ離れていた。
進む「X」化
サービス開始直後から、ずっこけたThreadsは、マスク氏買収後のXと同じような施策を何度も打ってきた。代表的なのが公式マークの有料化だ。続いて、広告なしの有料プランや「表示回数(インプレッション数)」の表示などだ。
Twitterは稼ぐのがとても下手くそな会社として有名だ。マスク氏のような純粋な経営者(Twitter文化そこまで愛さない人)がやっていることは確かに正しかった。
そこに、テキストSNSのルールを1ミリも理解していない、ほのぼのしたThreadsは、「儲かるために重要なこと」は何かをまず考えた。そうするとマスク氏と同じような考え方に至ってしまったのは極めて自然だ。
慎重な姿勢が仇となる-Bluesky
以前のTwitterのような環境を目指すSNSはマスク氏の買収後溢れ返っている。
代表的なのは、Twitterの前CEOの一人、ジャック氏が関与する「Bluesky」だ。こちらも、一時的に話題にこそなったものの、今は影同然だ。
代替手段・移動先としてあげられるには、使えないと意味がない。しかしBlueskyは先行公開の時期とTwitterの障害の時期がぴったり一致。インストールしても招待コードが送られてくるまで利用することはできない。慎重な開発を続けた結果、話題に上がるも移行先になることができず、見事に沈んだ。Threadsとは逆のパターンと言えるだろうか。使えても意味がないのがThreads、使いたいけど使えないのがBluesky。
消えゆくTwitter、唯一無二
Twitter周りの状況はこれまでにないほど悪化している。
Twitter文化を無視したTwitter2.0、代替手段はどれも痒いところに手が届かない。やはり、Twitterは唯一無二であったのだと実感させられる一年だった。
マスク氏はTwitterを「ユーザーの多いプラットフォーム」としてビジネス的な面からしか見ていない。しかし、Twitter民たちが求めるのは、2022年までのTwitterだった。スーパーアプリ化したXを、旧Twitter民たちが使うのだろうか。的外れな改革と言わざるを得ない。
しかし、Twitterの旧経営陣たちが現在のXを称賛しているのも事実だ。我々の求めるTwitterのままではビジネスとして成り立っていなかった。
営利企業である以上、最低限の改革は求められる。やはり、我々はXの方向性に従っていくしかないのではないか。来年、「X」が黒字化できるかが最大の焦点だ。